人生の最終段階-事例B (患者視点エピソード)
俺は、元予備校の名物講師。こう見えて友達は結構多い。ある小規模な介護施設でケアを受けていた。脳梗塞の後遺症で全身まひになり、左手が少し動く程度。移動は電動車いすだった。 近所の子供たちに勉強を教えるのは好きなんだけど、来るタイミングが悪い子がいるんだ。考え事をしているときとかに来ると、ムッとしたよ。 あと、外に出ようと思うときは、必ずスタッフを呼んでいたね。自分で玄関を開けられないからさ。すぐ来てくれれば、いいんだけど、時間がかかることもあってね。文句言うと「こっちも事情があるの」と怒られたよ。 俺が出入りを許したスタッフは3人だけ。ほかのスタッフは、礼儀を知らないからだめだ。あと、「世話をされている」という感じにされるのが、すごくいやなんだ。「友達」でいてほしいんだよ。介護施設の社長は「雨の日に出るな」とか、やりたいことを制限ばかりしようとうるさかったので、縁を切ったよ。 おふくろも、うるさいから来てほしくなかったけど、しょうがない。そんなとき、「友達」で「介護スタッフ」のKさんが「中和剤」になってくれたから助かった。おかげで、最期の時間は親子としていい時間をすごせたよ。 そうそう、遠方だけどどうしても聴きたいオーケストラのコンサートがあったんだ。昔からの友達がついてきてくれるはずだったんだけど、直前にだめになったんだ。慌ててKさんに頼んだら、風邪で寝込んでいるとのこと。何とかお願いしてほかのスタッフに来てもらった。友達だなぁ、とありがたかったよ。 他にも、大学の先輩が出るコンサートがあるから、行って花束を渡したい、とKさんに頼んだ。Kさんは「もし生きていたら、一緒に行こう。そうでなかったら、私が行って花束を渡すから」と約束してくれた。結局、俺は行けないみたいだけど、代わりにKさんが「友達」として行ってくれるはず。俺は、そう信じているよ。友達として接し続けてくれたことに感謝している。 原作:朝日新聞デジタル それぞれの最終楽章『団地で支える』より 株式会社ぐるんとびー 菅原健介社長
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