一般募集エピソード

SNSとの付き合い方
ホンネと科学的な正しさと

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 今日も僕の外来に「注射で人生を狂わされた」と訴える人が、紹介されてやってくる。確かに、因果関係が推測される人がいる。もちろん、説明の上で、適切な治療方針を立てる。自分に分からないこと、出来ないことは、信頼できる先生に相談する。でも多くの人は「医学的に考えて」おそらく関係がない。例えばある注射を肩に打って1ヶ月後に腰痛。因果関係は示しにくい。でも、腰の痛みは嘘じゃない。僕たちはプロとしてその訴え自体を嘘だと思っちゃいけないし、科学的に考えること、治療することから逃げちゃいけない。それに、色眼鏡なく「特に誘因なく」腰痛の可能性は?って変換して考えないと、もしかしたら偶発的な癌の転位だって見逃してしまうかもしれないよね。思い込みはいつだって診断能力を曇らせてしまう。
 多くの患者さんがSNSで情報を集める時代。医師の立場で「正しい医療情報」を叫んだところで、医療によって傷ついた患者さんはどこからかまた「怪しげな情報」で心を迷わせ、さらに傷ついて、またぶつけようの無い心の痛みを抱えてやってくる。僕は無力だ。
「この人に任せてみよう」そう思われないといけないのに。今日もまた僕は、言葉の選びかたを間違えたかもしれない。忙しそうな雰囲気で、言いたかった一言を飲み込ませなかっただろうか。こちらの考えを伝えるタイミングは、それでよかったのだろうか。
 「医療リテラシー」。不幸にもそこから外れてしまった、そこに答えを見つけられなかった患者さんに向き合うために必要なのは、単に知識の正確さだけじゃないはずだ。
SNSは苦手だ。みんな言いたい事を言って、敢えて不安を煽る人もいる。無責任だよね。でも、だからこそホンネも見えてくる。医者のホンネ、患者さんのホンネ。それは多分お互いに診察室で言えなかった事なんだ。だから、僕は今日も恐る恐るSNSを覗いてみる。
ほら、みんなの辛い本音の影に「医者でよかった」「この人に会えてよかった」って声があるじゃないか。リアルでもネットでも、相手を思いやる心が繋がった時には美しいと思える世界に僕らは生きているのだ。

原作者

アカウント名:ぬまっち ID:@yotuajjim

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コメント

コメント

医師の立場から、適切な情報提供の仕方を考える重要なエピソードだと思います。誤った情報を信じてしまった患者さんに対して、医療者が正論で真正面から否定することで、患者さんが傷ついたり、誤情報をより深く信じ込むきっかけになったりすることがあり、医療者側にも注意が必要です。こうした点を医療者側から啓発することは大切です。

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