患者視点

脳卒中
"私"を知るという予防

supported by
メディカルノート・日本脳卒中協会

 昼食から戻るとデスクに健康診断の結果が届いていた。産業医と面談するようにと通知がある。きっと小言を言われるだけだろうが、提示された時間はちょうど予定が合ったのでおとなしく向かった。
 部屋に入ると当然だが産業医が待っていて、挨拶もそこそこに本題に入った。血圧やコレステロールの話、喫煙や飲酒の有無・・よくある問診だ。
「血圧はずっとCみたいですけど、受診されてますか?」
「いや・・、あ、でも血圧の下がるお茶とか、そういうのは飲んでます」
「うーん、なるほど。そういう健康食品も良いですけど、根本的な食事の見直しと適度な運動が大事です。炭水化物・塩分・脂っこいもの控えめです」
「はい」
「あと、何か気になることありますか?」
ばっちり目が合ってしまって、今日初めて目を合わせたことに気が付いた。早く仕事に戻るために、何もないと言うつもりだったが、なんだか罪悪感で、そうは言えなかった。
「えーと、あ、ちょっと前に突然右の手足が痺れて、少ししたら治るっていうのがありました」
先生の顔つきが変わった。
「Aさん、すぐに精密検査を受けてください。いつ行けますか?紹介状を書きます」
せめて何か言っておくか、という思いで言っただけのことが、まさか、そんな大ごとに?
「脳梗塞の前兆に、半身が痺れて数分程度で戻るなどの症状が出ることがあります。この症状が出ると2日から90日以内に脳梗塞が発症することが多いです。すぐに検査が必要です」
 そうして、紹介された病院で精密検査をし、一過性脳虚血発作の疑い―、つまり産業医の言うとおり脳梗塞一歩手前だった。

 精密検査の後日、産業医に報告に行った。
「Aさん!どうでしたか?」
大事には至らなかったとお礼を言うと、きちんと話してくれたからだと、かえって褒められてしまった。
「体重には気をつけていたから、健診の結果にCがあっても年のせいだって思いこんでました」
健康診断のCは評価の真ん中ではなく、生活を見直すターニングポイントだということを説明された。
「今の数値であれば生活習慣の見直しで進行を抑えることができます。健康診断は自分の体の状態を知れる良い機会ですから、よく見てみてくださいね」
「タバコ吸ったり大酒飲んだりしてましたけど、せめてタバコはやめようかな」
「いいですね!全部一気に変えられなくても、始められるところから、見直していきましょう!」

 健康診断なんて、義務でしかなくて、結果もよく見ていなかった。でも、あれは自分の身体からのメッセージなんだと思うと、もっと向き合って、何か少し、できることをやってみようと思えた。

  1. ※TIA(一過性脳虚血発作):一時的に脳への血流が低下することでしびれやめまい、運動障害、言語障害など“脳梗塞”と同じ症状を引き起こす病態。

Medical Noteより

慶應義塾大学 医学部・医学研究科
衛生学公衆衛生学教室 教授 岡村智教先生

https://medicalnote.jp/nj_articles/230823-001-SB

Medical Note

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健康診断の結果からさまざまな指摘がされていたとしても、まったく症状がないこともしばしばあります。しかし、それが放置されてしまうと脳卒中や心筋梗塞など重大な病気の原因になってしまうことがあります。健康診断で何らかの指摘がされた際には適切なタイミングできちんと医療機関に受診して、必要な時には薬を服用していくことの重要性を知っていただければと思います。受賞作品はメディカルノートにも掲載予定です。多くの方のご応募をお待ちしています。

公益社団法人 日本脳卒中協会

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誰でも疲れた時などには何気ない自覚症状が出ることがあります。しかしその中に大きな病気が潜んでいることがあります。特に胸の苦しさや片側の手足の運動障害、ろれつが回らないなど、今までにないような症状が急に起こった時はただちに救急車を呼ぶべきです。一方、健康診断は健康管理のゲートキーパーです。いい成績を取るのではなく、異常等を指摘された箇所の問題点を理解し、どうすれば改善できるか、医師や保健師など専門家の助言も借りて考えましょう。今回の作品がそうしたきっかけになることを期待します。

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