歯科衛生士視点

歯科受診のタイミング

 私は歯科衛生士として、歯科医院に訪れる患者さんの、診療の補助や歯科予防処置、保健指導といった業務を行っている。  ある日、悪化したむし歯の治療に来たAさんという患者さんが「今すぐなんとかしてほしい」と痛みを訴えて来た。Aさんは治療にしばらく期間が必要な状態だったが、Aさんは一度の治療で治ると思っていたようで、「なんとか今日治せませんか?時間がかかっても構わないので…」と言った。「むし歯が神経まで届いているので、治療には時間と回数がかかります。痛みが早くなくなるよう、治療を進めていきますから」と歯科医師が伝えるのを見ながら、もっと早く来てくれればよかったのに、と思ってしまった。「そうなんですね。どうしても取りたい資格があるのに、仕事が忙しくて試験勉強の時間が取れなくて焦ってしまって…。無理を言ってしまいすみません」と次の予約を取っていった。  多忙なAさんなので、これから予定どおり治療を進められるか、気がかりだった。 「ごめんなさい!ぎりぎりになっちゃって!」  ばたばたとAさんが来院した。私の心配とは裏腹に、Aさんは今日まで、一度も急なキャンセルをしなかった。試験合格のためですからと、Aさんが真摯に治療を受ける姿を見て、私は「Aさん」という人と向き合い切れていなかったかもしれないと思い始めていた。  むし歯の治療と並行して、歯周病の検査を行ったところ、初期の歯周病と診断された。 「私の歯周病はいつ治るんですか?」 「歯周病は完治が難しい病気ですが、定期的に受診することで、ある程度予防と治療ができ、進行を食い止めることができます。家庭でのセルフケアはもちろんですが、取り切れていない汚れや歯石取りなどの歯科医院で行う専門的なプロフェッショナル・ケアも大事です」と、痛みなどの症状がなくても定期的な通院が大切だと説明した。意欲的なAさんだったが、不意に不安そうな顔を浮かべた。 「忙しいと日頃のケアが適当になってしまうので、定期的に受診しても、自分のせいで無駄にしちゃいそう」 今までの私だったら「そんなことありませんよ」と適切なケアの方法を伝えて終わっていたかもしれないけれど、Aさんが、一生懸命に治療を受けに来る姿を思い出して、もっと伝えられることがあると思った。 「歯科医院に来ていただければ、セルフケアで疑問や不安に感じていることも一緒に考えられます。その時のお口の状態に応じて、私もできるだけアドバイスさせていただきます。気軽に相談してくださいね」 その後、Aさんは安心した顔で次回の予約をしていった。  Aさんの生活の背景を意識して対応したことが、その後の定期的な受診に繋がり、嬉しさを感じるとともに、改めて患者さんと丁寧に向き合う大切さを実感して、これからも頑張ろうと気持ちを新たにした。

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