患者家族視点

早期受診の大切さ
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「いてて…」声が聞こえた方を見ると、趣味の庭仕事をしていた父が、肩を押さえていた。 「どうしたの?」 「急に痛くなって…。ん?もう平気だ」そう言って肩を回して見せた。 今年66歳になる父は、高血圧、糖尿病ではあるが、日常生活は困ることなく過ごせているので、今のようなことがあっても特に気に留めていなかった。それに、母や私たち一家と同居しているのだから、何かあっても大丈夫だろうと考えていた。  数日後、父が庭で突然胸が苦しいと訴え、その場に倒れた。駆け寄ると、胸だけではなく肩も押さえながら「痛い」と言っていた。 「お父さん大丈夫!?」 「病院に…救急車!」 「け、携帯!…どこにやったっけ!?」  何かあってもすぐ対応できると思っていたが、あまりに突然なことで、うろたえてしまった。救急車を呼び、母を同乗させて私も車で搬送先へ急いだ。  到着してすぐに、母とともに、B先生という研修医に倒れた時の様子を話した。「胸が苦しい」と訴えていたことから、心疾患の疑いがあるとのことだった。直前に肩も痛そうにしていたことが気になったが、慌ただしい現場と苦しむ父の姿を思い出し、治療の邪魔をしてはいけないと、言葉を飲み込んだ。  父は検査の結果、急性心筋梗塞と診断された。急性心筋梗塞は、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈という太い血管がつまる病気で、突然死の原因にもなるらしい。その後、緊急で検査を行うと、やはり冠動脈が動脈硬化で狭まっているとの結果だった。  すぐに手術が行われ、無事成功したので家族一同、胸を撫でおろしたものの、私はやはり肩のことが気になっていた。もし別の病気の影響だったら…という不安があった。  後日、父も交えて、今後のことについてB先生から説明を受けた時に、肩の痛みについても相談してみた。  先生は心筋梗塞の前兆となる狭心症には、「胸が痛い・締め付けられる」などの胸の症状だけでなく、「みぞおちが痛い」「喉・歯の痛み」「肩から腕のしびれ・痛み」などが起こる“放散痛”が伴う場合があると説明してくれた。そして、今回の父の肩の痛みはおそらく放散痛だと言った。  「そうなんですね。ご説明を聞いて、すっきりしました」と私がほっとしながら言うと、父が「そういえば倒れる何日か前にも急に肩が痛くなったことがあったな。体はサインを出していたんだな」とつぶやいた。それを聞いて、私もハッとした。  先生は「痛みを感じながらも、すぐに改善するので放置してしまう人が多いんです。心筋梗塞は再発しやすい病気なので、今度はすぐに受診してくださいね。それから、原因となる動脈硬化を防ぐためにも、日頃から適切な運動や食事をすることが大切なんです」と教えてくれた。  それから私は、ささいなことでも、おかしいなと思ったら気に留めようと思うようになった。先日の父への説明の場で、ついB先生に自分の高血圧のことをこぼしたとき、運動と食事を気にかけた方が良いと言われたことを思い出した。大切な家族のためにも、何かあってからでは遅い。日頃の生活習慣を見直し、自分の健康を気遣っていこう。元気になった父の姿を見て、心からそう思った。

原作:日経メディカルOnlineより提供

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コメント

今年は日本循環器学会にエピソードの作成協力をお願いしました。患者さんやご家族には、気になることがあれば医師に相談した方がよいこと、医師は患者さんやご家族の悩みに気づけていないことがある、と、日ごろのコミュニケーションの問題点を指摘したエピソードとなっています。マンガにしていただく方々には、その問題点をうまく表現していただければと思います。

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