早期受診の大切さ
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日経メディカル
私は幼い頃からの夢をかなえ、研修医として働いている。緊張しつつも、やる気に満ちた日々を過ごしている。 ある日、Dさんという60代後半の男性患者さんが救急車で搬送されてきた。カルテ作成のためにDさん家族と面談すると、「胸が痛いと言って突然倒れた」と息子さんが教えてくれた。 Dさん家族は不安そうな表情でそわそわしている。心疾患の中には自覚症状が少なく家族も気づかないことがあるので、そうなるのも無理はない。 「早く診断を確定して安心させなければ」と、私は指導医への報告を急いだ。心電図、血液検査などを行ったところ、Dさんは急性心筋梗塞だと分かった。さらに緊急で心臓カテーテル検査を行うと冠動脈の閉塞が認められ、カテーテル手術を行うこととなった。手術は無事成功し、私は「これで家族も安心するだろう」と一息ついた。 翌日、Dさんとその家族に、病状や手術の内容、今後の入院生活の説明を一通り終えると、息子さんから質問があった。 「父が倒れた時、胸の痛みの他に肩も痛いと言っていて、これって今回の病気と関係あったんですか?」 「心筋梗塞の前兆となる狭心症には、放散痛という胸以外の部分が痛む場合があります。多くは、みぞおち、喉・歯の痛み、肩から腕のしびれ・痛みなどです。おそらくDさんの肩の痛みも放散痛です。」 「そうなんですね。実は父が倒れた時から気になっていて…、やっとすっきりしました。」 私は手術日に息子さん達がそわそわしていたのは、ただDさんを心配していただけではなかったのだと気づき、不安そうにしていることに気づいたのに、声をかけなかったことを反省した。 Dさんが「そういえば倒れる何日か前にも急に肩が痛くなったことがあったな。体はサインを出していたんだな」と言ったので、私は「痛みを感じながらも、すぐに改善するので放置してしまう人が多いんです。心筋梗塞は再発しやすい病気なので、今度はすぐに受診してくださいね。それから、原因となる動脈硬化を防ぐためにも、日頃から適切な運動や食事をすることが大切なんです」と説明しながら、Dさん家族の表情や反応の変化を見逃さないよう努めた。ふと、息子さんが考える仕草をした。「何か分かりにくかったところや不安な点はありますか?」と聞くと、「健康診断で高血圧を指摘されたんですが、何もしてなくて。いや私のことなんて聞いちゃだめですよね」と、ばつが悪そうにした。声をかけて良かった、と思いながら、「そんなことありませんよ」と言い、適切な運動や食事を勧め、可能であれば受診するように伝えた。 後日、経過観察で外来受診に来たDさんから、「息子も先生の話を聞いて健康に気を遣うようになったので、今度一緒にウォーキングをしたりして、普段から血圧に気を配りたいと思っている」とお話があった。 私は嬉しくなった。今回の失敗を忘れず、さらに経験を積み丁寧な説明を心掛けることで、患者さんと患者家族を安心させられる医師になろうと気持ちを新たにした。
原作:日経メディカルOnlineより提供
コメント
今年は日本循環器学会にエピソードの作成協力をお願いしました。患者さんやご家族には、気になることがあれば医師に相談した方がよいこと、医師は患者さんやご家族の悩みに気づけていないことがある、と、日ごろのコミュニケーションの問題点を指摘したエピソードとなっています。マンガにしていただく方々には、その問題点をうまく表現していただければと思います。