ケアマネジャー視点

看取りが近づいた時に
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朝日新聞

 私は120人が入居する、特別養護老人ホームのケアマネジャーだ。  数年前の夏、Yさんという入居者がいた。認知症があり、老衰も進んでいたある日、誤嚥性肺炎(※1)を発症した。入院治療をしても食事をとると再発し、熱が引かなくなった。病院のソーシャルワーカーから私に、主治医が「また食べられるようになっての退院は難しい」と家族に伝えたことが報告された。それを聞いて、私は「ご家族が今後の判断をしやすいように、高齢者の看取りについて情報提供をしてみます」と伝えた。  Yさんの家族は「胃ろう(※2)はさせたくない」と考えていた。そのため、私は「病院側と今後の話を進める前に、介護施設・自宅での看取りや病院での延命治療が具体的にどんなものか」を家族に伝えたほうがいいと思ったのだ。  ACP(※3)という、最期のあり方について患者や家族、医療・介護職員らと話し合いを繰り返し、意思を共有する、という取り組みがある。  話し合うことは大事だ。ただ、率直に言って施設・病院側と、入居者・家族側とでは圧倒的な情報格差があり、中身のある話し合いをするためには、入居者や家族へのどういった選択肢や対応があるかなど丁寧な説明が必要だと感じていた。  その考えもあり、私はYさんの家族に呼びかけた。Yさんの夫を含めた家族が来た。  まず、老衰からの嚥下機能低下(※4)による施設の看取りの具体的な流れを説明。亡くなる時期が近づいてくると起こる体の変化や、それに応じた施設で看取る場合の対応について話した。看取りがどんなものかがイメージできるように、わかりやすく説明することが大事だ。もちろん家族自身で勉強することは必要だが、やはり限界があると思う。想像と違った処置に、Yさんの家族は少し驚きながらも、納得していたようだった。  この説明の10日後、Yさんは施設で穏やかに旅立った。家族からは、看取りを振り返ったとき「本当に説明されたように亡くなるのですね。前もって言っていただいたので、冷静に受け止められました」と言われた。  その言葉を聞いて、やはり説明やコミュニケーションは大切なことだと実感した。それからも入居者と家族へ、出来る限りの情報提供をわかりやすく行うようにしている。  その際、気をつけていることがある。「職員も悩んでいる」と正直に伝えることだ。  私たち施設職員は常にリスクと隣り合わせの中、入居者や家族と向き合っている。「お風呂に入れるか」「どのくらい食事を食べてもらうか」など悩み、迷う。看取りの説明をする際も、伝えるタイミングが早すぎても遅すぎてもいけない、と慎重に判断しようとする。月1回の「デスカンファレンス」を開き、看取り事例を振り返り、「ご家族への説明が足りなかったのでは」「介護の中身は、これでよかったのか」といったことを話し合い、次に生かすようにしている。どんなベテランでも即座に判断するわけではなく、悩み抜いた果てに選択するのだ。そういうことを話すと、家族も「しゃくし定規に決めているのではない」とわかってくれる場合が多い。  まだ至らない点もあるが、「看取りの質」を日々向上させるように努力している。

  1. (※1)誤嚥 ごえん (食べ物や唾液などが誤って気道内に入ってしまうこと)から発症する肺炎のことを指します。 誤嚥性肺炎の発症には、飲み込みに関係する機能が低下している(嚥下機能障害)ことが背景にあります。
  2. (※2)栄養を注入するために胃に孔を空けてチューブを入れる処置です。
  3. (※3)アドバンス・ケア・プランニング。人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス(愛称:人生会議)です。
  4. (※4)食べ物や水分を口の中に取り込んでから飲み込むまでの過程が、正常に機能しなくなった状態を指します。

原作:朝日新聞デジタル それぞれの最終楽章『特養で』より

特別養護老人ホーム「グリーンヒル泉・横浜」ケアマネジャー 小山輝幸さん

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コメント

朝日新聞の別刷りbeでは「それぞれの最終楽章」という看取りの連載をずっとしています。このエピソードは、そこからピックアップしたものです。文字だけで見るのと違い、マンガにすると読者の方に、よりイメージがわきます。この原作エピソードが、マンガになったらどんなふうになるのか、いまから楽しみです。

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