一般募集1.医師視点エピソード

医療に関する 言葉にしないと伝わらないこと (supported by SNS医療のカタチ・ケアネット)

「私は、主治医の先生にずっと嘘をつき続けていました。」

彼女が初めて私のところに受診した時、確かにそう言ったのだ。私は診療所で家庭医をしている。日常的な病気やケガを診る「かかりつけ医」である。そんな私の外来に通うAさんとの出会いは、とても印象的だった。Aさんは、50代の女性で、他の診療所で高血圧症の治療を受けていた。ある日、「かかりつけをこちらに変えたい」と希望して私の元へ訪れた。引っ越しなどの事情もなく、かかりつけを変更する患者は時々いる。転院の理由は「ここの方が雰囲気が良いから」とか「今の主治医と折り合いが悪くなったから」など。特に後者の場合は、これから主治医を務める上で、どんな事情だったか詳しく聞いておきたい。Aさんに病状や治療経過をある程度伺った後に、「かかりつけを変えようと思われた理由を聞かせてもらえますか」と尋ねた。すると、彼女は表情を強ばらせながら答えた。

A「私は良くない患者だったんです…。」

私「それは…、どういうことでしょう?」

A「私は、主治医の先生にずっと嘘をつき続けていました。」

彼女は確かにそう言ったのだ。私は戸惑いつつも傾聴に努めた。Aさんの事情は次の通りだった。

 BMIが高いAさんは、前の主治医から食事制限を厳しく指導されていた。食事制限を守れず体重が減らないと、主治医は叱りつけた。主治医に叱られるのを恐れたAさんは「指導に従っている」と嘘をつくようになったというのだ。体重が減らないため、主治医は「本当に食事制限しているのか」と問い詰めた。Aさんは嘘を重ねてその場をしのいだ。始めは嘘をつき通せばよいと思っていたが、数年が経ち、通院の度に交わす偽りのやり取りを虚しく感じた。そこでAさんは主治医を変えて、診療を再出発したいと考えたのだった。

 その日から、私とAさんの「ホンモノの診療」が始まった。「主治医へ嘘をつき続けていた」というAさんの語りは、たしかに独特だった。だが、患者が医師へ真実を語らないことは実は日常茶飯事ではないか。

「先生にまた説教されるだろうから、お酒の量が増えたなんて言えない」

「大したことないと軽くあしらわれないように、少しオーバーに伝えよう」

「細かな事情を上手く伝える自信がないので、省略しよう」

まずは、医師の方から言葉にして伝えるべきだろう。

「あなたのありのままを受け入れますよ」

「どんな些細なことでも話してもらって大丈夫です」



原作者:Soy@家庭医は楽しい(@Soy72229080)

SNS医療のカタチから

コメント

医療現場では、お互いが「言いにくい」と感じることでも、思い切ってストレートに伝えることで、むしろ信頼関係が良くなることがあります。これは、医療者、患者、どちらの立場でも言えることです。このエピソードでは、かかりつけ医を変更した理由を医師が患者に慎重に尋ね、患者もまた丁寧に言葉をつなぐように、本音を答えているのが印象的でした。

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