医療コミュニケーション 心房細動の治療 supported by メディカルノート・一般社団法人日本循環器学会
「治療の継続は本当に大事なんです。何度も説明していますので、わかっていただけていると思っています。大変心苦しいのですが、これ以上は無いようにして欲しいです。本当に…よろしくお願いします。」
返事はなく、かろうじて会釈のように頭だけを下げて出ていったその患者は、「心房細動」の治療では病院に来なくなってしまった。これは何年も前のことだが、今も頭を時折よぎる。
さて、今日は心房細動の治療をするAさんの定期的な通院日だ。毎日外来で数十人の患者を診ているが、その中でもAさんの初診時は印象に残っている。ハート(心臓)の日の記事がきっかけとなっての検脈。更にウェアラブルデバイス(※1)の心電図で異常を指摘されたことが受診を後押ししたのだそうだ。ウェアラブルデバイスで健康チェックを行っている人も最近では少なくない。
でもまぁ…などとためらわず、すぐに検査を受けに来ることはとても重要だ。もちろん心房細動ではないケースもあるが、それならそれでわかって良かったということだ。このAさんのように、自覚症状が無い中で発見できたのは幸運とも言える。心房細動患者さんのうち脳卒中になるリスク、処方通り服薬することの大事さを説明した。その後もきちんと来院してくれているのだが、今日は来なかった。
当初の予約日から何日かたってから、バツが悪そうにやってきた。何も私が言う前から、Aさんは、どうしても外せない仕事が立て込んでいてこれませんでした、と話してきた。診療を行い、「それでは、来月も待っていますね。」と笑顔で伝えたら、怪訝な顔で聞いてきた。
「先生、治療は継続が大事ってあれだけ言っていたのに。厳しく注意したりとかしないんですか?」
実はあの時以来、心掛けていることがある。納得の行く約束を”取り交わす” コミュニケーションは、一方通行ではだめなのだ。患者さんと医師が丁寧にコミュニケーションを行い信頼を深めることによって、質の高い診療が成り立つものだ。患者さんだって、本当は続けなきゃいけないことを当然に知っている。循環器内科医は慢性疾患の患者さんと長い付き合いになる。反省を繰り返しながら私なりの形を作ってきているが、それでも主治医と患者の信頼関係は難しい。
「私、実は注意されるのが苦手なんです。ひょっとしたら、Aさんも苦手かもしれないので…」
得意な人なんていませんよとAさんは笑って、「はい、来月もよろしくお願いします。」と言ってくれた。患者さんが自ら答えてくれることが大切なのだ。それから、改めて伝えるべきことを伝えよう。「治療の継続や生活習慣の改善が大事なので引き続き頑張りましょう」と。
(※1)腕などの身体に装着して利用することが想定された端末(デバイス)の総称。
原作:Medical Noteより
https://medicalnote.jp/nj_articles/210803-001-TX
岐阜ハートセンター循環器内科 佐橋 勇紀医師
メディカルノート
脳卒中や心不全の原因ともなる心房細動は、早期発見・治療がとても大切な病気です。今回の医療マンガ大賞を通して、一人でも多くの方に心房細動を知っていただき、脳卒中や心不全を予防することにつながればと期待しています。入賞作品はメディカルノートにも掲載させていただきます。たくさんのご応募をお待ちしています。
一般社団法人日本循環器学会
心房細動は一般的な不整脈であり、年齢とともにその有病率が増加しています。高齢化が進む2050年の患者数は総人口の1%以上、約100万人と予測されています 。動悸などの自覚症状がないことも多く、放置すると脳梗塞や心不全の原因にもなり得る疾患です。
早期発見や生活習慣病のコントロール、通院の重要性を漫画を通して、少しでも多くの方に知っていただきたいと思います。