コロナ禍でのある施設 supported by 朝日新聞
これは2020年春のことだ。
入院した入居者がコロナ陽性だったという話だった。それは大変だ!と言っていたが、大変なのはここからだった。そこから、感染が次々に発覚していった。施設職員も入居者も全員が濃厚接触の対象者になった。もっとも状況が悪化したとき、勤務を続けられる職員は10人に満たなくなった。私はそのうちの一人だった。
勤務する介護老人保健施設(老健)には100人近い方が入居している。入居者にも感染は広がったが、これだけの人数を受け入れられる余裕のある病院は全く見つからなかった。市内でもコロナは猛威をふるっていた。入居者の生活を守るためには施設に留まるしかなく、私たちが勤務を続ける必要があった。数人の施設職員で今できることは1日2回の食事提供が限度だ。入浴や洗髪は感染対策上できず、本当に申し訳ないのだが、時々体を拭くことが精一杯だった。介護ケアだけではなく看護師による医療的ケアも必要な状況だったが、早々に看護師が一人も出勤できなくなった。目の前の介護に忙殺されながらも、必要なケアができない歯がゆさと、先の見えない混乱に絶望的な気持ちになった。ニュースは連日、私たち老健施設について報じていたが、手伝ってくれる人はいなかった。ニュースに呼応するかのように、次々スマホに知り合いからの連絡が飛び込んでくる。すべてに返事をする余裕はない。心配よりも助けが欲しかった。ひょっとして、誰も助けてくれないのではないだろうか。そのように考えながら、車に泊りながらも昼夜を問わず仕事をしていた。入居者も普段とは全く違う環境の中で頑張っていた。
そのような中、応援で医師と看護師が来てくれた。大変な日々はこの後も続くのだが、「できることを考え、がんばりましょう。」という言葉はとてもありがたかった。応援の看護師は一人ずつ増えていった。施設内で亡くなる方が出る中、状況は一気に改善していった。施設に現地対策本部ができ、感染した入居者が入院していった。混乱はしていたが、同僚が復帰してくるなど、1か月近く続いた混乱は収まってきた。ただ、最終的には20人近くも亡くなってしまうこととなったのは、施設の職員として申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
久しぶりに入浴を提供できることとなり、入居者の「気持ちいいねぇ」という言葉を聞いた時に、ようやく日常が戻ってきた実感を得られた。命をつなぐだけがケアではない、とりとめのない会話ができるということは、なんと心地よいものだろう。
原作:朝日新聞デジタル それぞれの最終楽章『コロナ禍で』より
静明館診療所 大友 宣医師
朝日新聞の別刷りbeでは「それぞれの最終楽章」という看取りの連載をずっとしています。このエピソードは、そこからピックアップしたものです。文字だけで見るのと違い、マンガにすると読者の方に、よりイメージがわきます。この原作エピソードが、マンガになったらどんなふうになるのか、いまから楽しみです。